副住職の修行記録

ここでは高野山専修学院卒の副住職が、専学で修業させていただいた1年を振り返り、その様子を報告します。

 

高野山専修学院というのは、高野山の西の端、大本山寶壽院というお寺の中に設置されている、高野山真言宗の僧侶になるための修行道場です。ココは定員80名で男性のみの全寮制です。厳しいし修行生活のため残念ながら途中で挫折する者もいます。私の同期は59人で専学に入り51名で卒業をしました。内訳は、同期9名が途中で高野山を去り、2年前に病気で止む無く途中で高野山を去った1名が復学したのです。

ここでは高野山真言宗の僧侶となるべく、定められた規則と時間の下で一年間(正確には280日間)の修行生活を送ります。7月下旬から9月上旬と12月下旬から1月中旬の休暇期間を除き、下山することは認められません。

一学期は声明や諸経、歴史などの講義(教学)が多くを占め、三学期は京都各派本山参拝や四国巡拝、各種作法の伝授等が中心となっており、それぞれ水曜日に一時間、日曜日に二時間の外出時間が設けられています。二学期は真言宗僧侶になるために必須である四度加行を行い、加行中には壇上参拝を除き外出は認められず、院外との連絡も許可されていません。

 

◎専修学院の生活はとても厳しいのですが、他では経験できないことが沢山あります。主なものは以下の通り。

 1 高野山壇上伽藍山王院で年3回(6月7月2月)に月並法会に出仕させていただける。

 2 高野山奥の院灯篭堂で萬灯会の法会に出仕させていただける。

 3 高野山真言宗総本山金剛峰寺の大広間で夜通し厳修される常楽会(四座講式)に出仕させていただける。

 4 専修学院のある寶壽院本堂の大壇、講堂大壇、持仏の間大壇に登壇させていただくことができる。

 とくに萬灯会の出仕は一生に一度の出仕です。これは専学生しか経験できないのです!

 

◎専学での食事

専学では、肉魚はもちろん、五辛(ゴシン)といってニンニク、ニラ、ネギ類、ラッキョウ、ノビルを食べることが出来ません。仏様に毎朝お供えする精進供のキャベツ、 ニンジン、高野豆腐、ダイコンを中心に食事を取ります。といっても、食事を担当してくださるオバちゃんの腕前がかなりのモンで、美味しくいただくことができます。

専学での食事スタイルは「ご飯」と「おかず一品」の2皿しかありません。ご飯は白いご飯の代わりに「わかめご飯」や「山菜の炊き込みご飯」などがあり、混ぜんご飯の場合は必ず「お吸い物」です。西日本では結構定番ですが、うどん・そば・焼きそば等の麺類が出るときも、麺類はあくまで「おかず」であり主役は「白いご飯」ですので、炭水化物+炭水化物の組み合わせで配膳されます。

おかずとしては、コンニャクや油揚げの入った野菜の煮物はホッコリする味付けのため院生にも人気のレギュラーメニューです。具材は煮物と殆んど同じですが炒め物としては、ビーフン、焼きソバ、野菜炒めがあります。汁物はカレー・シチュー、キツネうどん・そばなど。それっぽい物としては、マーボー豆腐っぽいもの、けんちん汁っぽいもの、すき焼きっぽいもの、酢豚っぽいものも時々あります。ちなみに、カレーもシチューも「汁物」としてだされるので、白いご飯とカレーといった具合に別々に出ます。もちろんカレーライスとして食べることは出来ず、ご飯を一口食べてカレーをすする、といった具合です。あ、スプーンやフォークなどはありません。箸のみです。

オバちゃんは季節の事も考えてくださり、夏は冷奴とトマトなど涼しい物が多く、寒い冬は冷め難い餡かけの汁物が多いです。ただし、食事前には般若心経を唱える食事作法(ジキジサホウ)があり、準備から全員集合して作法をして食べ始めるまでには30分近く経っているので、温かい物は殆んど食べれません。大概「冷たくない」程度の温かさしかありません。

食堂(ジキドウ)は、本堂・集合所(シュエショ)と同じ三黙堂の1つなので、お勤めをする以外に私語は厳禁です。箸と茶碗のあたる音、麺類や汁物をすする音も厳禁です。なので「し~ん」と静まり返った食堂で黙々と食事をするだけです。当たり前ですが正座で姿勢よく食べます。箸や食器の持ち方が不恰好だと寮監先生から厳しいご指導をいただくことになり、その分正座をしている時間が増えて大変なことになります。

食事の配膳(準備や片付け)は数人の班毎に週変わりで担当します。

 

◎専学での生活スタイル

入学時(入寮時)に自動的に数名の班分けがしてあり、仲間としてスタートします。色々当番が回ってくるので、班員で協力し合い助け合いながら日々を過ごします。

部屋は2人1部屋です。院生が奇数の場合はもちろん1人部屋ですが、これは結構寂しいようです。

見ず知らずの方といきなり2人1部屋の生活が始まるので集団生活に馴染めない方は結構厳しいかもしれません。私の場合集団生活は初めての経験でしたが、相方がフランクな方でとても楽しく過ごすことができました。彼は本山で寺生をしていた高野山大学卒の方でしたので、俗世からいきなり修行生活に入った私にとってとてもとても頼りになる方でした。

平日は朝5時に、日曜は朝6時に、起床の半鐘を日直が鳴らします。5時10分には集会所に合掌して整列しておかなければならないので、5時の起床の鐘より早く起きます。人によっては4時に起きる方もいます。私は有志3名で水行を行っていたので起床の鐘の1時間前には必ず起きていました。

朝の点呼の後本堂にて朝勤行。入学したての頃は般若心経1巻です。専学では丁寧にゆっくりとお経をお唱えするように習います。2週間後くらいには般若心経6巻7巻(般若心経を6回とか7回とか繰り返し唱える。これがかなりキツイ)、理趣経、声明の授業で讃を習い始めると前讃1後讃1+理趣経、3・3理趣経、それぞれ授業で「唄」「散花・対揚」「錫杖」・「五悔」などを習うとドンドン朝勤行の次第に組み込まれて行き、最長2時間のお勤めとなります。もちろん「経頭」「讃頭」「散花師」「対揚師」「丞仕」等も役として全員何度も回ってきます。それぞれの作法がキチンと出来なければ寮監先生の厳しいご指導をいただくことになり、大変なことになります。本堂での朝勤行が終われば引き続き院内諸尊のお勤めです。その後掃除。

朝勤行は当然「衣」を着て「袈裟」を着けさせていただいてお勤めをさせていただいているわけですが、掃除は作務衣で行います。院内諸尊後掃除開始までは3分しかなく、専学名物「下座ダッシュ」と言われる、スーパーダッシュで部屋に駆け上がり急いで着替え、再び駆けつけるわけです。これが1階の部屋ならまだしも、3階の部屋の方はとても大変。朝からゼーハーゼーハー息が上がってしまいます。3分後の半鐘で集会所に遅刻したものは寮監先生の厳しいご指導を受けることになり大変な目にあいます。

15分の掃除を終えると再び衣に着替え袈裟を着けさせていただいて食事となりますが、もちろん着替えは3分しかなく、集会所から自室で着替えた後食堂に入るまでを3分で行わなければならずとても大変です。夏の暑い日は朝から大汗をかいてしまいます。食事後に寮監先生からの一日の動きが説明され、それぞれの予定に移ります。授業の日もあれば、法会に出仕させていただく日もあります。山内の法会に出仕させていただいていてもお昼ご飯は専学に帰院してから準備していただきます。

日中の予定が終われば、寶壽院の「持仏の間」で夕勤行があります。次第は理趣経中曲、観音経、般若心経秘鍵、梵網経、三陀羅尼、和讃、などその都度の出仕や行事にあわせた結構多彩な次第となっています。これも最長2時間とかになります。

夕勤行の後夕食となり20時に施餓鬼を行い21時に完全消灯となります。21時以降電気や喋り声が聞こえると、寮監先生にこっぴどく厳しいご指導をいただくことになり大変です。

このように専学では起床消灯時間が決まっており、9割9部9厘、就寝時間が21時30分とか22時になることはありません。なのでどんなに忙しくても21時には消灯しておかないと寮監先生にこっぴどく厳しいご指導を受けてしまいます。寮監先生に厳しく指導を受けるということは、その分時間がドンドン押して行くということです。5分間「叱られる」とその5分という時間が無くなるわけで、これがだんだんと物凄い意味を持つと気付くのです。私が専学に入る際に知り合いから『専学では「ハイ・イイエ・スイマセン」しか会話が出来ず、寮監先生のご指導は、たとえそれが理不尽だと思っても、「絶対」だ』と聞きました。全部が全部そうだったとは言いませんが、それでもそんなに外れてもいません。なので相当に厳しいと覚悟を決める必要がありますw。

 

◎専学ライフ

喫煙は可。隠れて吸って火事になっても困るというコトで喫煙室が設けてあります。掃除は喫煙者が当番で行う。時々喫煙者の寮監が院生とコミュニケーションをとっていました。専学を機に禁煙する方も毎年おられるようで、私は見事無事に禁煙をすることが出来、とてもありがたく思っています。

自販機があります。缶コーヒー以外の飲み物がそろっています。缶コーヒーは門主様のご意向で専学内では販売禁止。年中購入できますが、トイレ等で中座するとペナルティーが課せられてしまいます。お菓子は認められた外出時に購入できますが、成分表で不精進物が含まれいれば没収されます。米菓子系、純粋なチョコくらいしか購入できません。お菓子やジュースをバクバク食べて3度のご飯を残すことは厳禁。お菓子を食べるならご飯も食べる。

トイレは各階に全自動の洋式があります。もちろん和式もあります。トイレットペーパーは各自で用意しなければなりません。

自分が加行中にお借りしていた仏具の仏具磨きが合格していない者や1学期3学期のテストや総合的な成績が下位の者は卒業式の後も居残りをしなければならず、卒業式当日の居残りはもちろん、2~3日居残る者や1週間のスペシャル掃除のペナルティーを課せられます。なので何でもコツコツしておくことをお勧めしますw私は仏器磨きは院生中2番で合格しました。1番で合格した同期クンは寮監として専学に残りました。

私は専学の一年間、ずっと日記をつけていました。何時に起きて、3度の食事は何をいただいて等、わりと細かく記録をとっていました。なので、その内に整理をして公開しようかと考えています。